本報告書は、日本学術振興会・科学研究費プロジェクト「経済統計・政府統計の理論と応用からの提言」(2015年度-2018年度、研究代表者:山本 拓)が、2017年12月8日(金)に東京大学小島ホールにおいて開催した2017年度の研究集会における講演内容をまとめたものである。
経済統計とりわけ政府統計は、経済・社会の動向を理解し、政策を実施、評価するためには不可欠な情報であることは言うまでもない。近年はEBPM (Evidence based policy making)ということもよく聞かれ、統計の重要性は一般に広く認識されつつあると思われる。
本プロジェクトの目的は、経済統計・政府統計における主要な課題の、技術的および制度的問題を、統計学的な立場から理論的・学術的に検討すること、ならびに経済統計・政府統計の応用の際の問題点を明らかにし、それらの解決案を模索・提言することである。
本研究集会は、経済統計・政府統計をめぐる技術的・制度的問題点、あるいは応用にかかわる問題を、プロジェクトの過半をしめる統計学の研究者と実際に経済統計・政府統計の作成者または直接的な利用者として携わっている方々との直接的な交流の場を提供しようとするものである。
研究集会は8件の報告からなり、第1セッションでは、まずGDP統計の速報からその後の改訂に関わる景気判断の認識ラグの問題が数量的に検討された、次に既存の国土交通省の住宅流通統計の問題点が代替案との比較において検討された。最後は、把握が困難とされるサービス産業についての価格と生産性について、その問題点・課題が取り上げられた。 第2セッションでは、まず最近大きな話題となっている児童手当等の政府給付金の効果の計量的評価方法について、政府給付金の過小申告とその補完に対応する新しい手法が提案された。次に、現在は十分に把握されていない資産の世代間移転(相続)のデータ推計方法が紹介された。これは分配格差の時代的変化や相続税評価の検討の基礎となるものである。
第3セッションは統計的手法の問題を取り上げており、まずは小地域統計の最新理論と応用例が紹介された。次に匿名化問題に関して、例えば所得の内訳情報の秘匿をどのように行うかについての理論的アプローチが提案された。最後は、マクロ時系列データにおいて、長期、季節性、短期などの要因に分解する方法についての考え方が提案された。 上記のように多岐にわたるトピックを扱う研究集会が、経済統計・政府統計に様々な形で関わる人々の刺激となり、今後の各種統計の改善の一助になることを期待する次第である。