日本では2011 年3 月に発生した東日本大震災を一つの契機に「通常の常識では起こりにくいと される事象」についてのリスク解析や対策の重要性についての認識が高まっている。経済・社会 における近年の現象でも2008 年に起きたリーマンショック・経済危機、2011 年頃から顕在化して いるヨーロッパ諸国の金融危機なども我々が暮らしている国際的な経済社会においては、従来の 議論ではほとんど考慮されていない経済変動の例である。こうした事前には予想が困難で無視さ れてきた事象、自然災害、経済変動の中でも実際に起きると大きな影響のある不確実な事象を科 学的に理解し、有効な対策を考察する研究が必要であり重要である。
研究プロジェクト「経済リスクの統計学の新展開:稀な事象と再起的事象」では近年の日本な ど現代の経済・社会の理解にとって重要になっている「きわめて稀に起きる事象」と「しばしば起 きる事象」の評価・分析法について研究する予定である。「稀な事象」に関わる経済リスクの分析 という課題について理論的・実証的な観点から分析することにより、科学的根拠にもとづいた経 済・社会における「経済リスクの分散化」という方策、公共的政策のあり方の提案することが目 標である。近年に特に関心が高まっている「従来の常識では希にしか起きない、無視できると見 なされる事象」と「ときどき経済・社会では起きると見なされる現象」の科学的解析を柱に、確 率論・統計学と経済学・金融(ファイナンス・保険)における既存の理論と現実の乖離、新しい 数理的理論の構築と応用、新しい数理的理論を踏まえた「経済リスクの解析と分散化の方策」に ついての研究活動を行った。この研究プロジェクトでは経済リスクを(i) 社会・人口リスク, (ii) 自 然災害と極端な事象のリスク, (iii) 経済・金融・保険の対象となるリスク、に関連した3つの領域 の経済リスクに分類し、リスクに係わる問題と相互に関わる総合的問題という二つの方向から問 題を理論的に解明し、総合的な研究をふまえた経済リスクの科学的制御・管理の方策を検討した。 また確率論・統計学など数理科学の関係者、さらに金融(ファイナンス)の関係者を交え、現代 の社会・経済においては重要ではあるが、既存の研究分野では十分に取り上げられなかった研究 課題についての共同研究を行った。
研究プロジェクトの最終年度における研究集会では、経済リスクの統計学を巡るさまざまなト ピックについて報告が行われたが、それぞれの研究報告が「経済リスクの統計学の展開」の一助 になることを期待する。