本報告書は、日本学術振興会・科学研究費プロジェクト「経済統計・政府統計の理論と応用からの提言」(2015年度-2018年度、研究代表者:山本 拓)が、2017年2月2日(木)に東京大学小島ホールにおいて開催した2016年度の研究集会における講演内容をまとめたものである。
本プロジェクトの目的は、経済統計・政府統計における主要な課題の、技術的および制度的問題を、統計学的な立場から理論的・学術的に検討すること、ならびに経済統計・政府統計の応用の際の問題点を明らかにし、それらの解決案を模索・提言することである。 経済統計、とりわけ政府統計は、経済・社会の動向を理解し、政策を実施、評価するためには不可欠な情報であることは言うまでもない。近年はEBPM (Evidence based policy making)ということもよく聞かれ、統計の重要性は一般に広く認識されつつあると思われる。
しかしながら、経済統計・政府統計への信頼性は、近年必ずしも増しているとは言えない状況である。経済社会の急激な変化に伴い、政府統計の質の確保が困難になりつつあると思われる。たとえばマクロ経済統計の側面では、GDP統計や消費統計などに代表されるマクロ公表系列の質と信頼性の問題、信頼性の高い将来人口の推計の問題、地域による経済情勢のばらつきの把握などの問題を挙げることができる。またミクロ経済データにおいては、統計調査をとりまくプライバシー意識の高まりから、調査精度の確保が難しくなりつつあるという問題や、情報開示と秘密保持の両立という匿名化問題などを挙げることができる。
本研究集会の目的は、経済統計・政府統計をめぐる技術的・制度的問題点、あるいは応用にかかわる問題を、また統計学の研究者と実際に経済統計・政府統計に作成者または利用者として携わっている方々との直接的な交流の場を提供しようするものである。
第1セッションでは、貯蓄率を通じての各種公的消費統計に関する整合性の問題、より正確な消費統計のための需要側と供給側の調整の問題ならび高齢化に伴うと世帯変化の問題、さらに自記式アンケートに伴う標本調査に関する問題が取り上げられた。第2セッションでは、最近大きな話題となっている、GDP統計に関する季節調整法とベンチマークの影響の問題、さらに経済データの応用に関して、GDPと株価収益率の時系列データに基づく因果関係測定にまつわる問題が取り上げられた。第3セッションは統計的手法の問題を取り上げており、GDP統計の需要側と供給側の時系列的側面での調整の方法、ならびの動学的パネルデータ推定の新しい推定法が提案された。
このような研究集会が経済統計・政府統計に様々な形で関わる人々の刺激となり、今後の各種統計の改善の一助になることを期待する次第である。