本報告書は、日本学術振興会・科学研究プロジェクト「経済統計・政府統計の数理的基礎とその応用」(2011年度-2014年度、研究代表者:山本 拓)が、2014年1月31日(金)に東京大学小島ホールにおいて開催した2013年度の研究集会における講演内容をまとめたものである。
本プロジェクトの目的は、経済統計・政府統計における主要な課題の、技術的および制度的問題を、統計学的な立場から理論的・学術的に検討し、具体的解決策を提言することである。
経済統計、とりわけ政府統計は、経済・社会の動向を理解し、政策を実施、評価するためには不可欠な情報であることは言うまでもない。最近はevidence-based policyということもよく言われ、政府統計の重要性は一般に広く認識されつつあると思われる。しかし、経済統計・政府統計への信頼性は、近年必ずしも増しているとは言えない状況である。経済社会の急激な変化に伴い、政府統計の質の確保が困難になりつつある。マクロ経済統計の側面では、GDP統計などに代表されるマクロ公表系列の質と信頼性の問題、信頼性の高い将来人口の推計の問題、地域による経済情勢のばらつきの把握などの問題を挙げることができる。またミクロ経済データにおいては、統計調査をとりまくプライバシー意識の高まりから、調査精度の確保が難しくなりつつあるという問題や、情報開示と秘密保持の両立という匿名化問題などを挙げることができる。 新しい統計学的知見の導入に関しては、日本の政府統計部局が分散化されているために、これまでは、個別の担当部局あるいはその時々の担当者に個別に招かれた研究者によって知見や助言が提供されることが多かった。政府統計を巡る重要な論点について、担当部局をまたいでその知見が共有されることは少なかったと思われる。またそれらの話題が広く研究者間で議論されることも少なかった。そのような意味で、経済統計・政府統計の技術的・制度的問題点を、統計学的立場から総括的に検討していくという本研究プロジェクトは、一つの新しい方向性を示している。
本プロジェクトの研究集会は、プロジェクトのメンバーと実際に経済統計・政府統計に作成者または利用者として携わっている方々との積極的な交流を目指している。したがって研究集会における研究報告は、メンバーと外部の方の報告が概ね半々になるように構成されている。
2011年度の第1回目の研究集会の特徴は、外部の報告者として、実際に主要な政府統計を作成されている担当者を招き、作成上のポイントや課題を報告して頂いたことである。2012年度の第2回目の研究集会の特徴は、外部の報告者としては地方政府において統計に関わっている方に、そのあり方や課題などについて報告して頂いたことにある。さらにマクロ経済統計の作成者および利用者としての立場からその問題点や改善の方向性についての報告を頂いた。これら2回の研究集会の報告は、それぞれ東京大学大学院経済学研究科付属・日本経済国際共同研究センター(CIRJE)研究報告書シリーズのCIRJE-R-10ならびにCIRJE-R-12にまとめられている。
今年度は第3回目の研究集会として、外部の報告者として雇用・失業統計、人口統計、ならびに生産性統計についての報告をして頂いた。プロジェクトのメンバーからは物価指数、ならびにデータの匿名化についての報告が行われた。さらに季節調整の様々な問題について、海外からの招聘研究者を含む外部の方から報告して頂くと同時に、プロジェクトのメンバーの報告が英語セッションとして行われた。
このような機会が情報交換ならびにお互いの刺激となり、経済統計・政府統計の今後の改善の一助となることを期待する次第である。